
「修正3回まで。それ以降は追加料金」——契約書に書かれたこの一文を見て、ハンコを押す手が止まってしまった経験はありませんか?
「もし3回で納得いくデザインにならなかったらどうしよう」
「追加料金だけで予算が倍になったらどう説明すればいいんだ」
初めて外注を担当する方や、過去に制作会社とのやり取りで疲弊した経験がある方ほど、この「回数制限」に強い不安を覚えるものです。デザインという正解のない領域で、回数を区切られることに対する恐怖心、痛いほどよくわかります。
しかし、あえてプロデューサーの視点から言わせてください。この制限は、あなたからお金を搾り取るための「罠」ではありません。むしろ、プロジェクトを迷走させず、最短ルートでゴールに導くための「地図」のようなものなのです。
今回は、業界の相場を知るだけでなく、多くの人が見落としている「1回の修正の本当の定義」と、制限回数内で完璧なアウトプットを引き出すための発注側のハック術をお伝えします。これを読めば、回数制限が怖くなるどころか、逆に武器として使えるようになるはずです。
デザイン修正の回数制限、一般的な相場は何回まで?
- 一般的な相場は「2回〜3回」が基本
- 初稿(最初の提案)後の微調整を想定した回数である
- 格安サービスやクラウドソーシングでは「修正1回」や「なし」の場合も
まずは業界の「ものさし」を持っておきましょう。結論から言うと、一般的なデザイン制作において、見積もりの基本料金に含まれる修正回数は「2回〜3回」がスタンダードです。
デザイン制作会社 amix(アミズ)の情報によると、一般的なデザイン制作では初稿提出後の修正は「2〜3回まで」を基本料金に含むことが一般的とされています。これは、最初の提案(初稿)に対して、クライアントからのフィードバックを受けてブラッシュアップしていくプロセスを想定しています。
「たった2回?」と思われるかもしれませんが、これには理由があります。通常、プロのデザイナーは初稿の段階で80%〜90%の完成度を目指して提案します。残りの10%〜20%(細部の色味調整や文字の配置など)を、この2〜3回のやり取りで詰めていくというのが、健全な制作フローだからです。
一方で、数千円で依頼できるような格安サービスや個人のクラウドソーシングの場合、「修正は1回のみ」あるいは「修正対応なし(買い切り)」というケースも珍しくありません。逆に、大手代理店経由の高額な案件では、回数制限を設けず、納得いくまで調整する費用があらかじめ莫大なディレクション費として積まれていることもあります。
なぜ制作会社は「修正回数」を制限するのか?(プロの裏事情)
- デザイナーの工数(時間)を守り、利益を確保するため
- 「いつでも直せる」という甘えがプロジェクトを遅延させるのを防ぐため
- クライアント側の「意思決定」を促すための仕組み
制作会社が意地悪で回数を制限しているわけではありません。ここには明確な「プロの事情」があります。
最大の理由は「工数管理」です。デザインは形のない商品であり、その原価のほとんどはデザイナーの「時間(人件費)」です。もし修正が無制限になれば、1つの案件に永遠に時間を取られ、会社として利益が出せなくなってしまいます。
しかし、もっと重要な、クライアントにとってもメリットとなる理由があります。それは「意思決定の質を高めるため」です。
「修正は無制限です」と言われると、人間はどうしても「とりあえずここを変えてみて、ダメなら戻せばいいや」と安易な指示を出しがちになります。これがプロジェクトを迷走させる最大の原因です。「あと2回しか直せない」という制約があるからこそ、「本当にこの修正でいいのか?」「社内の意見はまとまっているか?」と真剣に検討するようになります。
結果として、制限があるほうが、ダラダラと期間が延びることなく、質の高いアウトプットが短期間で完成するのです。私は普段、システム開発や運用の自動化を行っていますが、ここでも同じことが言えます。「期限とリソースの制限」こそが、クリエイティブの質を高めるスパイスなのです。
知らないと損をする「修正1回」のカウント方法と定義の落とし穴
- 「修正1回」=「メール1通」ではない場合が多い
- 複数の修正箇所をまとめて依頼して初めて「1回」とカウントされる
- 五月雨式の連絡は、回数を無駄に消費する最悪のアクション
ここが今回の記事で最もお伝えしたいポイントです。契約書の「修正3回」という文字だけを見て安心していませんか?実は「1回」の定義が、制作会社とクライアントの間でズレていることがトラブルの元凶です。
多くの制作会社において、「修正1回」とは「修正指示書(またはメール)をまとめて提出し、それに対する修正版が上がってくるまでの1ラリー」を指します。
例えば、以下のようなケースを見てみましょう。
- NG例(五月雨式)
- 10:00に「タイトルの色を赤にして」とメール(修正1回目消費)
- 10:30に「やっぱり写真も差し替えて」とメール(修正2回目消費の可能性大)
- 11:00に「電話番号が間違ってた」とメール(修正3回目消費の可能性大)
- OK例(まとめ出し)
- 10:00〜11:00に社内で確認し、変更点をリスト化。
- 11:30に「タイトル色変更、写真差し替え、電話番号修正」を1通のメールで送付(これで修正1回目)
このように、思いついた順にパラパラと指示を送るのは御法度です。デザイナーからすれば、作業を中断してファイルを開き直すたびに工数が発生します。そのため、たとえ微修正であっても、メール1通ごとに「1回」とカウントされるリスクがあるのです。
契約時には必ず「どこまでを1回の修正とみなすか?」を確認してください。そして、発注側としては「修正箇所は一度にまとめて伝える」ことが、限られた回数を有効に使うための絶対ルールです。
修正回数を抑えて「理想のデザイン」を最速で手に入れる3つの鉄則
- 明確な「オリエンシート(指示書)」を用意する
- 修正指示は社内で完全に合意形成してから出す
- 「かっこよく」等の抽象語を避け、参考画像(ビジュアル)で伝える
修正回数がかさんでしまう原因の9割は、デザイナーのスキル不足ではなく、発注側の「指示の曖昧さ」と「社内意見の不一致」にあります。以下の3つの鉄則を守れば、修正は驚くほどスムーズに進みます。
1. オリエンシートの質を高める
着手前の準備が全てです。ターゲット、目的、掲載媒体、必須要素、NG要素などをまとめた「オリエンシート」を作り込んでください。ここがブレていると、どんなに優秀なデザイナーでも的を射たデザインは作れません。
2. 社内の合意形成を済ませてから指示を出す
よくある失敗が、担当者の独断で修正指示を出した後、上司が出てきて「全然違う、元に戻せ」とひっくり返すパターン(通称:ちゃぶ台返し)。これはデザイナーのモチベーションを最も下げ、修正回数を無駄に浪費します。指示を出す前に、必ず決裁者の承認を得てください。
3. 言葉ではなく「視覚」で伝える
「スタイリッシュに」「ポップに」といった言葉の定義は、人によって千差万別です。あなたの思う「ポップ」とデザイナーの思う「ポップ」は違います。必ずPinterestやGoogle画像検索などで参考画像を探し、「配色はこれ、雰囲気はこれに近いイメージ」とビジュアルで共有してください。
「修正無制限」の業者は本当にお得?メリットと注意すべきリスク
- 一見お得に見えるが、最初から見積もりが割高なケースがある
- 品質の低いデザイナーが担当になるリスクも
- プロジェクトが長期化し、市場投入のタイミングを逃す恐れ
「修正回数を気にしなくていいなら、無制限の業者が一番いいのでは?」と思うかもしれません。しかし、ビジネスにおいて「無制限」には必ず裏があります。
まず、「保険料」が上乗せされている可能性です。何回直しても赤字にならないよう、最初の見積もり金額が相場より高く設定されていることがあります。
次に、「質の担保」の問題です。実力のある売れっ子デザイナーは、効率的に仕事を回したいため、終わりの見えない「修正無制限」の案件を敬遠します。結果として、経験の浅いデザイナーや、時間を持て余している質の低い業者が担当になるリスクが高まります。
そして最大のリスクは「プロジェクトの塩漬け」です。期限がないため、いつまでも完成せず、本来リリースすべきタイミングを逃してしまう。これでは本末転倒です。「修正無制限」という言葉の甘さに惑わされず、その裏にあるリスクを天秤にかける必要があります。
予算オーバーを防ぐ!追加料金が発生するタイミングと費用目安
- 「修正回数の上限」を超えた時
- 「初稿の要件」を根本から覆す大幅な変更(作り直し)
- 追加費用の相場は、修正規模やデザイナーの単価による
トラブルを避けるために、どんな時に「追加料金(アディショナルコスト)」が発生するのかを知っておきましょう。
- 規定回数を超えた場合
これは契約通りです。3回までの契約で4回目の修正を依頼する場合、追加費用が発生します。 - 大幅な仕様変更(作り直し)
これが最も揉めるポイントです。例えば、「縦型のチラシで作っていたが、やっぱり横型にしてほしい」「ターゲットを女性から高齢男性に変えてほしい」といった要望は、修正ではなく「別案の作成(作り直し)」とみなされます。これは回数内であっても、別途デザイン費を請求されるのが普通です。
費用目安としては、軽微なテキスト修正なら数千円、レイアウト変更を伴うものは見積額の10〜30%、作り直しの場合は新規作成と同額がかかることもあります。「ここからは別料金になりますか?」と、作業発生前に確認する癖をつけましょう。
契約前にここをチェック!修正トラブルを回避する確認リスト
- 修正回数の上限とその後の追加料金体系
- 「1回の修正」の定義(まとめ出しが基本か)
- 「修正」と「作り直し」の境界線
- 初稿提出までの期間と、修正対応にかかる日数
最後に、契約書や発注前の打ち合わせで確認すべきリストをまとめます。
- [ ] 基本料金に含まれる修正回数は何回か?
- [ ] 回数を超過した場合の追加料金はいくらか?(1回あたり、または時間単価)
- [ ] 修正指示を出してから、修正版が上がってくるまでの目安日数は?
- [ ] 大幅なデザイン変更(作り直し)になった場合の扱いは?
- [ ] 誤字脱字など、制作側のミスによる修正は回数に含まれないか?(これは当然含まれるべきではありません)
これらを事前に握っておくだけで、後々の「言った言わない」のトラブルを99%防ぐことができます。
まとめ:回数制限は「質の高いデザイン」を完成させるための道標
- 回数制限は、集中力を高めプロジェクトを成功させるためのルール
- 「修正1回」を無駄にしないための準備(まとめ出し・合意形成)が鍵
- 制限を恐れず、パートナーシップを築くための材料にする
「修正3回まで」という制限は、あなたを縛る鎖ではありません。それは、「3回のやり取りの中で最高のものを作り上げよう」という、デザイナーとクライアントの間の共同作業の約束事なのです。
デザインの外注は、自動販売機のようにボタンを押せば正解が出てくるものではありません。発注側であるあなたが、いかに的確な「インプット(指示)」を与えられるかで、「アウトプット(成果物)」の質は劇的に変わります。
もしあなたが今、修正回数に怯えて発注を躊躇しているなら、まずは「伝えたいこと」を整理することから始めてみてください。準備さえ整っていれば、3回の修正は決して少なくありません。むしろ、余るくらいスムーズに、理想のデザインが手に入るはずです。
制限を味方につけ、ビジネスを加速させるクリエイティブを手に入れましょう。