
「あそこの角を曲がって……」
診療中、受付スタッフが電話で延々と道案内をしている声に、思わず溜息をついたことはありませんか?
「問い合わせが多い」というのは、一見するとクリニックの認知度が上がっている証拠のように思えます。しかし、その大半が「診療時間」「駐車場」「場所」といった事務的な内容であれば、それはホームページが機能していない証拠です。
本来、あなたのクリニックのスタッフは、目の前の患者さんのケアや、正確な医療事務を行うためにそこにいます。電話のオペレーターではありません。
今回は、Webサイトを「ただ置いているだけの看板」から「24時間働く優秀な受付スタッフ」へとアップグレードし、電話対応のストレスから解放されるための「防衛型Web運用」について解説します。
なぜ「問い合わせが多い」ことはクリニックにとってリスクなのか?
- 電話対応による業務中断が、スタッフの集中力を削ぎミスを誘発する
- 「つながりにくい」電話は、本当に受診が必要な急患の機会損失になる
- 事務的な対応に追われることで、院内の患者満足度(CS)が低下する
開業から数年が経ち、外来患者数が安定してくると直面するのが「オペレーションの限界」です。院長である先生ご自身も、診察中に受付から絶えず聞こえる電話の着信音に、無意識のストレスを感じているのではないでしょうか。
私が多くのクリニックサイトを制作・改善する中で痛感するのは、「電話の多さは、経営のリスクである」という事実です。
スタッフが受話器を取るたびに、カルテ入力の手は止まり、会計待ちの患者さんへの対応は後回しになります。1件3分の電話が1日20件あれば、実に1時間の人的リソースが奪われていることになります。しかもその内容が、Webサイトを見ればわかるようなことばかりだとしたらどうでしょう?
これは単なる時間の無駄ではありません。スタッフの疲弊を招き、離職率を高める「見えないコスト」なのです。
スタッフの手を止める「無駄な問い合わせ」の正体と特定方法
- 問い合わせの8割は「Webで解決できる」事務的な質問である
- 「電話ログ」をとることで、ホームページの欠陥箇所が特定できる
- 患者は「サイトを見るのが面倒」だから電話しているわけではない
敵を減らすには、まず敵を知る必要があります。明日から1週間だけで構いません、受付スタッフに「電話の内容」を正の字で記録してもらってください。
おそらく、医療的な相談や予約の変更といった「人間が対応すべき電話」は全体の2割程度でしょう。残りの8割は以下のような内容ではありませんか?
- 「今日の午後はやっていますか?」(診療時間の確認)
- 「駐車場はありますか?」(アクセスの確認)
- 「今から行って診てもらえますか?」(混雑状況の確認)
- 「熱があるのですが行ってもいいですか?」(発熱外来のルール確認)
これらは全て、「ホームページに書いてある情報」のはずです。
しかし、患者さんが電話をしてくるのは、決して彼らが怠慢だからではありません。「スマホでサイトを開いたが、知りたい情報がどこにあるか瞬時に判断できなかった」からです。つまり、これは患者さんの行動心理を無視したWebデザインの敗北なのです。
ホームページを「24時間働く受付」に変える3つの基本要素
- スマホファースト:PC版のデザインよりもスマホでの視認性を最優先する
- ファーストビュー完結:スクロールなしで「時間・場所・予約」を見せる
- 動的な導線設計:すべてのページから「アクション」へ誘導する
無駄な電話を減らすためのWebサイト改善において、美的センスは二の次です。重要なのは「検索性」と「即時性」です。
患者さんの多くは、移動中や具合が悪い時にスマホで検索します。その状況で、綺麗な院内の写真がスライドショーで流れるのを待っている余裕はありません。
- スマホで見た瞬間、ヘッダー(画面上部)に何がありますか?
- 「今、空いているか」がひと目でわかりますか?
- 地図アプリへのリンクは1タップで起動しますか?
この3点を満たすだけで、サイトは「閲覧するもの」から「利用するツール」へと変わります。これが「24時間働く受付」としての最低条件です。
【対策1】FAQ(よくある質問)を「電話ログ」から逆算して作り直す
- 教科書的なQ&Aではなく、実際の「電話ログ」をそのままQ&Aにする
- カテゴリー分けを行い、アコーディオン形式で視認性を高める
- 「よくある質問」ページへのリンクを、全ページの目立つ場所に配置する
多くのクリニックのFAQページは、「保険証をお持ちください」といった当たり前のことばかりが並んでおり、機能していません。
ここで、先ほど採取した「電話ログ」が役立ちます。スタッフが電話口で答えている「回答」こそが、Webサイトに掲載すべきコンテンツの正解です。
例えば、「駐車場はありますか?」という電話が多いなら、FAQのトップに「駐車場について」を配置します。さらに、単に「あります」と書くのではなく、「提携駐車場が3台分ございます。満車の場合は近隣のコインパーキング(地図リンク)をご利用ください」と、電話で説明している内容をそのままテキスト化します。
「電話で聞かれること=Webサイトに足りていない情報」です。この等式を意識してFAQをリライトするだけで、問い合わせの総量は目に見えて減少します。
【対策2】アクセスページの強化で「道案内電話」をゼロにする工夫
- 「駅徒歩5分」というテキストだけでなく、曲がり角ごとの写真を用意する
- Googleマップの埋め込みは必須、さらに「現在地からのルート」ボタンを設置
- 近隣のランドマーク(コンビニや目印)を具体的に記載する
「近くまで来ていると思うんですが、場所がわからなくて……」という電話ほど、スタッフの時間を奪うものはありません。
Googleマップがあれば十分だと思いがちですが、高齢の患者さんや地図を見るのが苦手な方は、地図アプリの操作自体に不慣れです。
ここで有効なのが、「写真付きの道案内」です。
「駅の改札を出て右へ」「セブンイレブンの角を左へ」といった主要なポイントを、実際の風景写真とともにブログ記事やアクセスページに掲載してください。
これは、スタッフが電話口で「そこにコンビニが見えますか? そこを左です」と説明しているプロセスを、Web上で視覚的に再現する手法です。これにより、道案内という「最も生産性の低い電話対応」を劇的に減らすことができます。
【対策3】予約システムの導線最適化で「空き確認」の電話を遮断する
- Web予約システムと連携し、「現在の混雑状況」をトップページに表示する
- 「電話する」ボタンの近くに、必ず「Web予約」ボタンをより大きく配置する
- 電話受付時間をあえて限定的に記載し、Web誘導を強化する
「今から行ってすぐ診てもらえますか?」という問い合わせを防ぐには、「行ってみないとわからない」という不安をWeb上で解消する必要があります。
Web予約システムを導入している場合、トップページの最も目立つ場所に「本日の予約状況」や「現在の待ち人数」が表示されるウィジェットを設置してください。
「現在3人待ち」「午後は予約に空きあり」という情報がひと目でわかれば、患者さんは電話で確認する必要がなくなります。
また、Webデザイン上のテクニックとして、スマホサイト下部に固定表示するメニュー(フッターバー)において、「電話」ボタンよりも「Web予約」ボタンを色濃く、大きく配置します。視覚的な優先順位を変えることで、無意識のうちに電話以外の手段を選ばせる「ナッジ(行動誘導)」の効果が期待できます。
【発展】チャットボットとWeb問診票の導入で問い合わせを自動化する
- シナリオ型チャットボットで、夜間・休日の問い合わせを完全自動化
- Web問診票の導入で、来院後の事務作業と「受診可否」の電話を減らす
- ITツールは「集患」のためでなく「スタッフを守る」ために導入する
ここまでの対策を行ってもなお減らない問い合わせや、診療時間外の対応には、テクノロジーの力を借ります。
近年、導入が進んでいるのが「チャットボット」です。画面右下に表示される「質問はこちら」というアイコンです。
株式会社DONUTSが提供するCLIUSの記事(Primary Source参照)でも触れられている通り、電話自動応答システムやチャットボットの導入は、患者さんにとっても「待たずに解決できる」という大きなメリットがあります。
「発熱がある場合の受診方法は?」「予防接種の料金は?」といった定型的な質問に対して、ボットが24時間365日、即座に回答を提示します。これにより、スタッフが出勤した瞬間に留守番電話の確認に追われる、という朝の風景が一変します。
また、Web問診票を導入し、予約時に症状を入力してもらうことで、「この症状で受診していいか」という事前確認の電話も未然に防ぐ(フィルタリングする)ことが可能になります。
クリニックのWebサイトを「集客ツール」から「フィルタリングツール」へ
- すべての患者を受け入れるのではなく、自院の方針に合う患者をWebで選別する
- 「できないこと」を明記することも、立派な患者サービスである
- 問い合わせのハードルを上げる(Web完結させる)ことが、診療の質を守る
多くのWeb制作会社は「どうやって問い合わせを増やすか(集患)」を提案しますが、ある程度軌道に乗ったクリニックに必要なのは、「いかに不要な問い合わせを減らすか(防衛)」という視点です。
これは「患者さんを拒絶する」ということではありません。「当院では〇〇の検査はできません」「〇〇の症状の方は専門病院へ紹介します」といった情報をWeb上で明確に伝えることは、患者さんが無駄足を踏むのを防ぐ、誠実な親切心です。
Webサイトを「集客ツール」としてではなく、適切な患者さんを適切なタイミングで誘導するための「フィルタリングツール」として再定義してください。
まとめ:問い合わせを減らすことは、診療の質を上げることと同義である
- 電話対応の削減は、スタッフの精神的余裕と定着率向上に直結する
- Webサイトの改善は、一度行えば24時間働き続ける資産になる
- 「診察」と「ケア」に集中できる環境作りこそが、院長の最大の仕事
「電話対応も仕事のうちだから仕方ない」と諦めていませんか?
しかし、その数分間の積み重ねが、スタッフの笑顔を奪い、結果として患者さんへの接遇レベルを下げてしまっています。
Webサイトの構造を少し見直し、FAQを充実させ、予約システムへの導線を整理する。これらは一度仕組みを作ってしまえば、あなたが寝ている間も、休診日の間も、文句ひとつ言わずに患者さんの疑問を解決し続けてくれます。
スタッフが電話の音に怯えることなく、目の前の患者さんに100%向き合える環境を作る。
それこそが、Web活用における真の「業務効率化」であり、ひいてはクリニックの評判と医療の質を高める最短ルートなのです。