
「月々の管理費が高すぎる」「解約したくてもサイトの権利が業者にあり動けない」そんな悩みを抱える院長は少なくありません。
特に地方で長年クリニックを経営されている先生方から、こうしたご相談を頻繁にいただきます。開業当初は「初期費用無料」という言葉に魅力を感じて契約したものの、気がつけば5年、10年と契約が続き、トータルでは高級車が買えるほどの金額を支払っているケースも珍しくありません。しかも、それだけ払っても「解約すればサイトは消滅します」と言われてしまう。これでは、まるで終わりのないローンを払い続けているようなものです。
実は、病院のホームページでも「管理費なし」あるいは「極めて低コスト」での運用は可能です。
しかし、そこにはプロとして正直にお伝えしなければならない、「自己責任」というトレードオフが存在します。安易に「管理費ゼロ」飛びつくと、医療法改正の際に誰も助けてくれない、あるいはセキュリティ事故で患者さんの信頼を失うといったリスクも孕んでいるのです。
本記事では、ウェブ制作と患者導線のプロである私が、後悔しないための「賢い買い切り型サイト」の作り方と、その裏にあるリスク管理について解説します。先生がご自身のクリニックの「資産」としてホームページを持つための、判断材料となれば幸いです。
病院ホームページで「管理費なし」を実現する3つのパターン
- 完全買い切り型(制作会社への依頼):初期費用のみ支払い、保守契約を結ばないパターン
- 自社運用型(WordPress等の活用):サーバー契約から更新まで院内で行うパターン
- 無料ツール型(Wix/Jimdo等):システム利用料のみで制作するが、医療機関には不向きな点も
まず、「管理費なし」といっても、その内実はいくつか種類があります。先生がイメージされている「月額を払わなくていい状態」を実現するには、主に以下の3つのアプローチがあります。
1. 完全買い切り型(制作会社への依頼)
これが最も現実的かつ、先生が求めている形に近いでしょう。制作会社にしかるべき「制作費(初期費用)」を支払い、完成したサイトのデータを全て納品してもらう方法です。
この場合、毎月の支払いは、先生自身が契約するサーバー代とドメイン代(月額数千円程度)のみになります。制作会社との「保守契約」を結ばないため、毎月の管理費は発生しません。
2. 自社運用型(WordPress等の活用)
院内にITに詳しいスタッフやご家族がいる場合、WordPress(ワードプレス)などのCMSを使って自分たちで構築・運用する方法です。
これなら制作費すら抑えられますが、デザインのクオリティや、後述する医療広告ガイドラインへの適合を素人が行うのはハードルが高く、本業が忙しい先生にはあまりお勧めしません。
3. 無料ツール型(Wix/Jimdo等)
「無料でホームページが作れる」というサービスです。確かに管理費はかかりませんが、無料版では広告が表示されたり、独自ドメインが使えなかったりと、医療機関としての「信頼性」に欠けます。有料プランにすれば広告は消えますが、結局「月額費用」が発生するため、本末転倒です。
プロの視点から言えば、「1. 完全買い切り型」で、かつ「自分たちで更新できる仕組み(CMS)」を入れてもらうのが、最もバランスの取れた選択肢です。
「制作費0円・管理費あり」モデルの落とし穴とトータルコストの比較
- 5年間の総額比較: 「初期0円」は最終的に割高になるケースが大半
- 所有権の問題: リース契約と同様、解約=サイト消滅のリスク
- CMSの制約: 独自システムだと他社への乗り換えが困難になる
なぜ多くの院長先生が「初期費用無料」の業者を選んでしまい、後に後悔するのでしょうか。それは、目先のキャッシュフローが良く見えるからです。しかし、ここには「リース契約」に近い罠があります。
5年スパンで見るトータルコスト
例として、以下の2パターンを比較してみましょう。
- A社(サブスク型): 初期費用0円、月額管理費3万円(5年契約)
- B社(買い切り型): 初期費用80万円、月額管理費0円(サーバー代実費のみ月5,000円程度)
一見、A社の方が手軽に思えます。しかし5年後(60ヶ月)の総額を見てください。
- A社: 180万円(しかもサイトは自分のものにならない)
- B社: 80万円 +(5,000円×60ヶ月)= 110万円(サイトは自分の資産)
A社のようなモデルの場合、株式会社ファロなどの制作会社も警鐘を鳴らしている通り、「制作費が無料であることには理由」があります。多くの場合、独自システム(その会社でしか更新できない仕組み)にロックインされ、解約しようとすると高額な違約金を請求されるか、データが一切手元に残らない契約になっているのです。
「月々の支払いは経費で落ちるから」という理由で選ばれることもありますが、数百万払っても「何も残らない」のと、資産として「所有権がある」のとでは、経営上の意味合いが全く異なります。
管理費なしにするメリット:長期的なコスト削減とサイトの所有権
- 固定費の削減: 月々の支払いがサーバー・ドメイン代(数千円)のみに
- 資産化: サイト自体がクリニックの所有物となり、将来的なリニューアルも自由に
- 業者に縛られない: 担当者の対応が悪ければ、いつでも他社へ相談できる
管理費をなしにする(買い切り型にする)最大のメリットは、金銭的なコスト削減だけではありません。「主導権をクリニック側に取り戻す」という点にあります。
クリニックの「資産」として残る
買い切り型であれば、完成したウェブサイトは先生のものです。将来、閉院する際や、息子さんに継承する際も、そのまま引き継ぐことができます。賃貸物件と持ち家の違いと同じで、リフォーム(改修)も自由ですし、気に入らなければ別の制作会社やフリーランスに修正を依頼することも可能です。
経営判断のスピードアップ
管理費の高い業者の中には、「修正依頼をしても2週間待たされる」「写真1枚の差し替えで追加料金を取られる」というケースがあります。
自社所有(管理費なし)のサイトで、自分たちで更新できるシステムにしておけば、例えば「インフルエンザワクチンの予約開始」のお知らせを、受付スタッフがその場でアップロードできます。このスピード感は、地域医療における患者サービスの向上に直結します。
管理費なしにするリスク:医療広告ガイドライン修正とセキュリティ保守
- 法対応の自己責任: 医療法改正時の修正を自分たちで把握・対応する必要がある
- セキュリティリスク: サーバーの更新や不正アクセス対策を放置しがちになる
- トラブル時の相談先: サイトが見れない等の緊急時に頼れる相手がいない
ここまでメリットをお伝えしましたが、ここからは「あえて管理費を払う意味」についても触れなければなりません。管理費なしを選択する場合、以下のリスクを先生ご自身(または院内スタッフ)が負うことになります。
医療広告ガイドラインへの対応
医療業界は法規制が厳しい分野です。「絶対に治ります」「No.1」といった表現がNGなのはご存知かと思いますが、ガイドラインは時代とともに変化します。
月額管理費を支払っている場合、良心的な業者であれば「先生、この表現は法改正でNGになったので修正しましょう」と提案してくれます。しかし、管理費なしの場合、誰も教えてくれません。知らず知らずのうちに違法な広告を掲載し続け、保健所から指導が入るリスクがあります。
セキュリティとシステムの老朽化
ウェブサイト、特にWordPressなどは、定期的なプログラムの更新(アップデート)が必要です。これを放置すると、サイトが改ざんされたり、ウイルスをばら撒く踏み台にされたりします。
「管理費なし」とは、こうした「見えない部分のメンテナンス」を誰もやってくれないことを意味します。「急にサイトが真っ白になった!」という時に、電話一本で駆けつけてくれる相手がいない不安は、あらかじめ想定しておく必要があります。
自分たちで更新・管理するためのシステム(CMS)選びのポイント
- WordPress一択: 世界標準のシステムを選ぶことで、対応できる業者が多くなる
- 独自CMSは避ける: 業者独自のシステムは「解約=サイト削除」の罠になりやすい
- 更新頻度の高いページを特定: 「お知らせ」「休診案内」だけ簡単更新できれば十分
もし先生が「管理費なし」を目指すなら、導入するシステム(CMS)選びで失敗してはいけません。
結論から申し上げますと、「WordPress(ワードプレス)」での制作を指定してください。
なぜWordPressなのか?
世界で最も使われているシステムだからです。利用者が多いということは、それだけ情報も多く、対応できる制作会社や技術者が日本中にいます。
もし最初に依頼した制作会社が倒産したり、対応が悪くなって縁を切ったりしても、WordPressで作っておけば、別の業者に「メンテナンスだけお願いしたい」と引き継ぐことが容易です。
逆に、制作会社が独自に開発した「〇〇システム」などは避けるべきです。その会社と契約している間しか使えず、他社への移行が極めて困難になるからです。これは、先生を縛り付けるための鎖になり得ます。
病院が「管理費なし」の制作会社を選ぶ際のチェックリスト
- ドメイン・サーバーの名義: 契約名義が「クリニック」になっているか確認
- 修正費用の単価: 月額がない分、都度の修正費(スポット対応)がいくらか聞く
- マニュアルの有無: スタッフが更新するための手順書が含まれているか
- 医療専門の知識: デザインだけでなく、ガイドラインへの理解があるか
制作会社に見積もりを依頼する際は、以下の点を必ず確認してください。これをクリアしていれば、管理費なしでも安全に運用できる可能性が高いです。
- 「ドメインとサーバーの契約名義は誰になりますか?」
- 正解:「クリニック名義(院長名義)」です。
- 不正解:「弊社(制作会社)名義でお貸出しします」→これは所有権がない証拠です。
- 「更新マニュアルはもらえますか?」
- 納品後、自分たちでお知らせを更新できなければ意味がありません。動画やPDFでのマニュアル提供があるか確認しましょう。
- 「何かあった時のスポット対応費はいくらですか?」
- 管理費なしとはいえ、年に1回程度はプロの手が必要な修正が発生します。その際、「1時間あたり5,000円〜」など、明確な料金表がある会社は信頼できます。「その都度見積もり」は高額請求の元です。
結論:管理費の有無よりも「運用の自由度」で選ぶべき理由
- 完全な0円より「低維持費」を目指す: サーバー代+スポット修正費の予算化
- 「所有権」を持つことの重要性: 経営環境の変化に対応できる資産を持つ
- 契約の見直し時期: 自動更新される前に、現在の契約内容の確認を
病院ホームページにおいて「管理費なし」は可能です。しかし、それは「何もしなくていい」わけではなく、「定額の保険料を払うのをやめて、何かあったら実費で払う」という選択をすることに他なりません。
私からの提案は、極端な「完全0円」を目指すのではなく、「所有権を確保した上での低コスト運用」です。
- サイト自体は「買い切り」で作る(所有権を持つ)。
- 月々の固定費はサーバー・ドメイン代の実費(数千円)のみにする。
- 浮いた管理費の分をプールしておき、法改正や大規模な修正が必要な時だけ、プロに「スポット依頼」でお金を払う。
これが、地方のクリニック経営において最もコストパフォーマンスが良く、かつリスクヘッジができる運用体制です。
もし現在、月額数万円のリース契約のようなホームページをお持ちであれば、契約更新のタイミングが来る前に、一度契約書を確認してみてください。「解約したらデータはどうなるのか」。その答え次第では、早めに「資産としてのホームページ」への切り替えを検討すべき時期かもしれません。