
「担当者が辞めてしまい、病院のホームページをどう引き継げばいいかわからない」「Jimdoから別のサービスに移りたいが、メールが止まると困る」。そんな不安を抱える事務長・院長の方へ。
病院の公式サイトは、地域住民や患者さんにとって、診療時間や休診情報を確認するための大切な「インフラ」です。一般企業のサイト以上に、一時的な停止や情報の不備が許されない性質を持っています。
本記事では、医療機関のWeb運用支援を行ってきた私の経験から、病院がJimdoサイトを移行する際に絶対に見落としてはいけないポイントと、リスクを最小限に抑える具体的なステップを詳しく解説します。
病院ホームページのJimdo移行で知っておくべき2つの形式
- 「移行」には大きく分けて2つのパターンがあることを理解する
- パターン1:同じJimdo内で管理者を変更する(難易度:低)
- パターン2:JimdoからWordPressなど他システムへ移る(難易度:高)
- 目的に合わせて適切な手段を選ばなければ、無駄なコストやリスクが生じる
一口に「Jimdoのサイトを移行したい」と言っても、その目的によってやるべき作業は全く異なります。
まず、「現在のホームページのデザインやシステムはそのまま使い続けたいが、管理していた職員が退職するため権限を引き継ぎたい」という場合。これは「アカウントの移動(管理者変更)」にあたります。リスクは低く、手続きも比較的シンプルです。
一方で、「Jimdoでは機能が足りない」「デザインを刷新したい」といった理由で、WordPressや他のCMSへ乗り換える場合。これは「外部サーバーへの移管(リニューアル)」となります。こちらはドメイン(URL)の移管手続きや、サーバー設定の知識が必要となり、手順を間違えるとサイトが表示されなくなったり、病院代表メールが届かなくなったりするリスクがあります。
まずは、自院がどちらのパターンに当てはまるのかを明確にしましょう。それによって、準備すべき心構えとリソースが変わってきます。
パターン1:管理者交代による「アカウント間の移動」手順
- 前任者が在籍中に必ずログインID(メールアドレス)とパスワードを確保する
- Jimdo公式の「ホームページの移動」機能を使用する
- 個人のメールアドレスではなく、組織用のアドレス(info@やadmin@など)で管理する
管理担当者の退職に伴う引き継ぎであれば、サイト自体を作り直す必要はありません。Jimdoのアカウント(ホームページの編集権限)を、新しい担当者のアカウントに移すだけで完了します。
具体的な手順は以下の通りです。
- 受取用アカウントの作成:引き継ぐ新しい担当者が、まず自分用のJimdoアカウントを作成します。この際、個人のGmailなどではなく、病院として管理できるアドレス(例:
system@hospital-name.jpなど)を使用することをお勧めします。特定個人の退職に左右されない体制を作るためです。 - 移動リクエストの送信:現在ホームページを管理しているアカウント(前任者)でログインし、ダッシュボードから該当するホームページの「•••(メニュー)」をクリックし、「ホームページを移動」を選択します。
- 受取人の指定:移動先のメールアドレス(手順1で作ったアドレス)を入力し、送信します。
- 承認作業:新しい担当者のメールアドレスに承認依頼が届くので、リンクをクリックして移動を完了させます。
重要な注意点として、この作業は必ず「前任者の退職前」に行ってください。前任者の個人のメールアドレスで管理されている場合、退職後に連絡がつかなくなると、パスワードリセットすらできず、最悪の場合サイトの編集が永久にできなくなる「管理不能状態」に陥ります。これは病院として大きなセキュリティリスクです。
パターン2:JimdoからWordPress等へ「外部サーバー移管」する流れ
- Jimdoには「データのエクスポート(書き出し)機能」がないことを知る
- テキストや写真は手作業でコピー&ペーストする必要がある
- 新しいサーバーの契約とドメインの接続変更(DNS切り替え)が最大の山場
「Jimdoを卒業して、もっと自由度の高いサイトにしたい」という場合、作業は大掛かりになります。最大の壁は、「Jimdoにはボタン一つでデータを引っ越しさせる機能がない」という点です。
安全に移行するためには、以下のフローを遵守してください。
- 素材のバックアップ:現在のサイトにある文章(院長挨拶、診療案内など)をWordなどにコピーし、使用している写真データも手元に保存します。
- 新サイトの構築:新しいサーバー(WordPressなど)上に、仮のアドレスを使って新しいホームページを作成します。この段階ではまだ一般公開しません。
- コンテンツの移植:保存した文章や写真を、新しいサイトに手作業で入れていきます。
- ドメイン設定の切り替え:ここが最重要です。現在のURL(ドメイン)が新しいサーバーを見るように設定を変更します(DNS設定)。
病院の場合、「古いサイトが消えてから新しいサイトを作る」という順序は絶対にNGです。24時間365日、患者さんがアクセスする可能性があるため、「新サイトが裏側で完全に完成してから、一瞬で切り替える」という手順を踏む必要があります。
医療機関が移行時に最も注意すべき「ドメインとメール」の継続利用
- 独自ドメイン(病院名.jpなど)の管理権限が誰にあるかを確認する
- Jimdoでメール(Google Workspace等)を利用している場合、設定変更でメールが止まるリスクがある
- 「AuthCode(オースコード)」の発行が移管の鍵となる
医療機関の移行で最もトラブルになりやすく、かつ致命的なのが「メールとドメイン」の問題です。
多くの病院では、ホームページのドメイン(example-clinic.jpなど)と同じドメインで、代表メールや職員用メールを利用しています。Jimdoから外部へ移行する際、ドメインの移管手続き(レジストラ・トランスファー)を伴うことが多いのですが、この設定を誤ると「ホームページは新しくなったが、数日間メールが一切届かない」という事態が発生します。
診療予約の確認メール、検査会社からのデータ、紹介状のやり取りなど、メールの停止は診療業務に直結します。
これを防ぐためには、以下の確認が不可欠です。
- ドメインは誰が管理しているか:Jimdo経由で取得したのか、お名前.comなどで取得してJimdoに繋げているのか。
- メールサーバーはどこか:Jimdoの有料プランに付属するメール機能を使っているのか、別のメールサーバーを使っているのか。
特にJimdoでメール運用をしている場合は、移行と同時に別のメールサーバー(さくらインターネットやXserver、Google Workspaceの直接契約など)への切り替え契約が必要です。この「メールサーバーの引っ越し」は専門的な知識が必要なため、自信がない場合はIT専門業者に相談することを強く推奨します。
サイト移行で病院の検索順位(地域SEO)を落とさないための対策
- 「地域名+診療科」での検索順位維持は経営生命線
- URL構造が変わる場合は、新旧ページの対照表を作る
- リダイレクト設定(自動転送)ができない場合の代替策を用意する
「〇〇市 内科」「〇〇駅 整形外科」といったキーワードでの検索順位は、新患獲得における生命線です。サイト移行によってこの順位が急落することは避けなければなりません。
検索順位が落ちる主な原因は、「ページのアドレス(URL)が変わってしまうこと」です。例えば、これまで「アクセス」のページが domain.jp/access/ だったのに、新サイトで domain.jp/map/ に変わってしまった場合、Googleは「ページが消滅した」と判断し、評価をリセットしてしまいます。
対策としては、「可能な限りURLを同じにする」ことです。WordPressなどへ移行する場合、パーマリンク設定を調整して、Jimdo時代と同じURL構造を再現しましょう。
もしシステム上どうしてもURLが変わる場合は、「301リダイレクト」という転送設定を行うのが定石ですが、Jimdoの仕様や移管方法によっては、旧URLからの転送設定を維持するのが難しいケースがあります。その場合は、少なくとも「ページタイトル」と「メタディスクリプション(説明文)」を旧サイトと同じ内容にすることで、検索エンジンへのマイナス影響を緩和させる努力が必要です。
移行作業中の「表示停止」を防ぎ、患者への影響を最小限にする方法
- DNSの切り替えには「浸透期間(数時間〜72時間)」がある
- 新旧両方のサーバーでサイトが表示される期間を設ける
- 作業は「金曜日の夜」や「連休前」に行うのがベター
インターネットの仕組み上、サーバーを切り替える設定(DNS変更)を行っても、世界中のインターネット利用者に反映されるまでにはタイムラグがあります。これを「プロパガンダ(浸透)期間」と呼びます。
この期間中、ある患者さんのスマホには「新しいサイト」が表示され、別の患者さんのPCにはまだ「古い(Jimdoの)サイト」が表示されるという現象が起きます。
ここでやってはいけないのが、「切り替え手続きをした瞬間に、旧Jimdoサイトを解約・削除してしまうこと」です。これをすると、まだ古いサーバーを見に行っている患者さんには「ページが見つかりません」というエラー画面が表示されてしまいます。
正しい手順は以下の通りです。
- 新しいサーバーでサイトを公開状態にする。
- DNSを切り替える。
- 最低でも1週間〜2週間は、古いJimdoサイトも契約を残したまま公開し続ける。
- 完全に切り替わったことを確認してから、旧契約を解約する。
コストを惜しんで解約を急ぐと、信用に関わる「表示停止」を招きます。重複期間のコストは「安全料」と割り切りましょう。
移行のタイミングで実施したい「医療広告ガイドライン」のセルフチェック
- 数年前に作ったコンテンツは、現在の法規制に違反している可能性がある
- 「日本一」「絶対」「最新」などの禁止表現を削除する
- コピペ移行する際こそ、文言修正の絶好のチャンス
Jimdoで数年前に作成したサイトをそのまま移行する場合、内容が現在の「医療広告ガイドライン」に適合していないリスクがあります。特に2018年の医療法改正以降、Webサイトへの規制は非常に厳しくなっています。
移行作業でテキストをコピー&ペーストする際に、以下の表現が含まれていないかチェックしてください。
- 比較優良広告:「地域No.1」「日本有数の実績」など、他院より優れていると誤認させる表現。
- 誇大広告:「絶対に治ります」「魔法の治療」など、科学的根拠に乏しい、または効果を保証する表現。
- 体験談:患者さんの主観に基づく「感想」や「感謝の声」の掲載(原則禁止されています)。
- ビフォーアフター写真:詳細な治療内容、費用、リスク等の説明が併記されていない写真のみの掲載。
古いサイトの情報をそのまま新しい器に移すのではなく、コンプライアンスの観点で「大掃除」を行うことが、病院としての信頼性を高めることにつながります。
病院公式サイトの移行を自社で行うか、専門業者に依頼するかの判断基準
- 「メール設定」と「ドメイン移管」が不安ならプロに任せるべき
- 自力でやる場合のコストは「金銭」ではなく「担当者の責任と時間」
- 失敗した際の影響範囲(患者・連携医療機関)を考慮して決断する
最後に、この移行作業を自分たち(院内スタッフ)でやるか、外部の制作会社に依頼するかの判断基準をお伝えします。
【自社で対応可能なケース】
- パターン1の「Jimdo内での管理者変更」である。
- ドメインやメールの設定変更を伴わない。
- 万が一、数時間サイトが見られなくなっても、電話などで対応できる規模である。
【専門業者に依頼すべきケース】
- JimdoからWordPressなど、異なるシステムへの完全移行である。
- 病院の代表メールや、医師のメールアドレスも同じドメインで運用している。
- 地域SEOでの順位が高く、集患への影響を絶対に出したくない。
- 医療広告ガイドラインに適合しているか不安がある。
事務長やIT担当の方が一人で抱え込み、「経費削減のために」と無理をして自力移行を試みた結果、メールが消失したり、長期間サイトがダウンしたりして、結果的に業者に緊急復旧を依頼する……というケースは少なくありません。その場合のコストとストレスは、最初から依頼するよりも遥かに大きくなります。
病院ホームページは、患者さんの健康と安心をつなぐ窓口です。「技術的な挑戦」をする場ではなく、「確実な安全性」を選ぶべき場です。自院のリソースとリスクを天秤にかけ、最善の選択をしてください。