
「朝、突然メールが届かなくなった」「自社サイトが消えている……」制作会社の倒産や音信不通は、中小企業にとって死活問題です。しかし、絶望するのはまだ早い。今すぐ適切な行動を取れば、ドメインやサイトデータを取り戻せる可能性は残っています。本記事では、ITの知識がなくても実行できる『サイト救出作戦』をステップバイステップで解説します。あなたの会社のデジタル資産を、最悪の事態から救い出しましょう。
【緊急】制作会社が倒産・連絡不能になった直後にまず確認すべきこと
- パニックにならず、まずは「事実確認」を行う(倒産か、夜逃げか、一時的な障害か)
- 契約書、請求書、メール履歴などの「証拠書類」をすべて集める
- 銀行口座の引き落とし状況を確認し、直近の支払いが実行されているかチェックする
突然、頼りにしていた制作会社と連絡がつかなくなると、目の前が真っ暗になる感覚に襲われるかもしれません。特に、メールサーバーもその会社が管理していた場合、取引先との連絡まで断たれてしまい、事業そのものがストップする恐怖を感じることでしょう。
しかし、ここで感情的になって電話をかけ続けても時間は過ぎるだけです。まずは冷徹に状況を把握しましょう。
最初にやるべきは、それが「倒産」なのか「夜逃げ(連絡不通)」なのか、あるいは単なる「技術的な通信障害」なのかの切り分けです。会社のオフィスに行ってみる、張り紙がないか確認する、あるいは帝国データバンクなどで倒産情報を検索するのも一つの手です。
並行して、手元にある契約書一式、直近の請求書、担当者とのやり取りのメールなどをすべてかき集めてください。これらは後述する「権利奪還」の交渉において、あなたが正当な利用者であることを証明する唯一の武器になります。
また、通帳を確認し、サーバー費用やドメイン費用の引き落としがいつまで行われているかを確認してください。「未払い」で止まっているのか、「会社が消滅」して止まっているのかで、打つべき手が変わります。
サイト消滅までのカウントダウン:サーバーとドメインの「所有権」を確認する
- ドメイン(ネット上の住所)の名義が「自社」か「制作会社」かを確認する
- サーバー(ネット上の土地)の契約者が誰になっているかを特定する
- 最悪のシナリオは「両方とも制作会社名義」であること
Webサイトが表示されなくなる仕組みはシンプルです。「住所(ドメイン)」の期限が切れるか、「土地(サーバー)」の契約が切れるか、あるいはその両方です。
ここで致命的に重要なのが、「誰の名義で契約されているか」です。
ITに詳しくない経営者の方の多くが、「お金を払っているのだから、当然自分のものだろう」と考えています。しかし、制作業界では「ドメインもサーバーも制作会社名義で代理契約している」というケースが非常に多いのです。
もし、ドメインの名義が制作会社になっており、かつその管理画面へのログイン情報をあなたが知らない場合、そのドメインは法的には「制作会社のもの」として扱われます。倒産管財人によって資産として凍結されたり、更新費用の未払いで誰でも取得できる状態に放出されたりするリスクがあります。
まずは「Whois検索」などのツールを使い、自社サイトのドメイン登録者情報を確認しましょう。ここが自社名義になっていれば一安心ですが、制作会社名義になっている場合は、一刻を争う事態です。
誰でもできる「サイト救出」72時間チェックリスト
- サーバー会社・ドメイン管理会社へ直接「事情説明」の連絡を入れる
- 「利用料金の直接払い」を申し出て、サイトの延命措置を依頼する
- FTP情報(サーバー接続情報)を探し出し、データのバックアップを試みる
サイトが消滅するまでのリミットは、多くの場合、次の更新日か、未払いによる強制停止のタイミングです。これを私は便宜上「72時間の壁」と呼んでいます。倒産直後の混乱期に動かなければ、サーバー上のデータが削除されてしまう恐れがあるからです。
以下の手順で即座に行動してください。
- インフラ会社の特定
Whois情報や過去の請求書から、どこのサーバー会社(Xserver、さくらインターネットなど)とドメイン管理会社(お名前.comなど)が使われているかを突き止めます。 - 救済措置の嘆願
制作会社を通さず、直接そのインフラ会社サポートに連絡します。「制作会社が倒産し、連絡がつかない。自分たちはエンドユーザーであり、料金を支払う意思がある」と伝えてください。通常、第三者への情報開示は厳しいですが、倒産の事実と利用の証明(請求書など)があれば、一時的に契約の巻き取り(名義変更)や支払いの受付に応じてくれる場合があります。 - データの確保
もし手元に「FTP情報」や「WordPressの管理者ログイン情報」が残っていれば、すぐにログインしてデータをダウンロードしてください。専門知識がなければ、信頼できる知人のエンジニアや別の制作会社に緊急依頼してでも、データをローカル環境に吸い出すことが最優先です。
悪質な「リース契約」の罠:会社がなくなっても支払いは止まらない?
- ホームページ制作における「リース契約」は途中解約できない借金契約
- 制作会社が倒産しても、信販会社への支払義務は残る可能性が高い
- 「役務の提供」が受けられないことを理由に支払停止の抗弁を検討する
ここで、さらに頭の痛い問題に触れなければなりません。もしあなたがホームページの制作費を「5年リース」などで契約していた場合です。
株式会社シナゲートの事例解説にもある通り、ホームページ制作をリース契約で行っている場合、制作会社が倒産してサイトが消滅したとしても、信販会社(リース会社)への支払契約は残り、満了まで支払いを続ける必要があるリスクが存在します。
なぜなら、リース契約とは「信販会社が制作会社に代金を一括で払い、あなたが信販会社に分割で返済する」という金銭消費貸借契約(借金)に近い性質を持つからです。モノ(サイト)がなくなろうと、借金は消えません。
しかし、諦める前に確認すべきは「リース契約の中に保守管理(サーバー費用など)が含まれているか」です。もし保守運用が含まれているにもかかわらず、制作会社の倒産でそのサービスが受けられない(役務不履行)状態であれば、信販会社に対して「支払停止の抗弁」を主張できる可能性があります。
これは法律の専門知識を要する領域ですので、リース契約書を持ってすぐに弁護士や消費生活センターへ相談してください。「会社がないから払わなくていいだろう」という自己判断で支払いを止めるのだけは、信用情報に傷がつくため絶対に避けてください。
データが取り出せない場合の最終手段:キャッシュやアーカイブからの復元
- 「Wayback Machine」で過去のサイトデザインやテキストを確認・保存する
- Googleのキャッシュや検索結果からテキストデータを回収する
- 画像やロゴなどは社員のPCやスマホに残っていないか総ざらいする
サーバー会社への交渉も不調、FTP情報も不明、すでにサイトが見られない……という最悪のケースでも、まだ「復元」の道はあります。
インターネット上には、過去のWebサイトの状態を保存している「Web魚拓」のようなサービスが存在します。代表的なのが「Wayback Machine(ウェイバックマシン)」です。ここに自社のURLを入力すれば、過去のある時点でのサイトの姿を閲覧できる可能性があります。
ここから、掲載していた文章(テキスト)、会社概要、メニュー構成などをコピー&ペーストで回収しましょう。完全なデータの復旧はできませんが、ゼロから原稿を作り直す手間は大幅に省けます。
また、Googleで「site:あなたのドメイン」と検索し、キャッシュが残っていないか確認するのも有効です。
デザインデータそのものは戻ってきませんが、「何が書いてあったか」さえ分かれば、別の制作会社に依頼して、突貫工事で仮サイトを立ち上げることは可能です。
新たなパートナー選びで失敗しないための「管理権限」移管の条件
- ドメインとサーバーの契約名義は必ず「自社(貴社)」にする
- 「管理者権限(Admin)」のアカウントを自社で保有する
- 契約解除時にドメイン移管やデータ引き渡しに応じる条項を入れる
今回のトラブルを乗り越え、新たにホームページ制作や運用を依頼する際、絶対に譲ってはいけない条件があります。それは「主導権(オーナーシップ)を自社が持つ」ことです。
私が自動化システムのプロデューサーとしてクライアントに関わる際も、必ずサーバーやドメインはお客様自身のクレジットカードで契約していただきます。これは、私(運用者)に万が一のことがあっても、お客様の資産を守るためです。
次の制作会社には以下の条件を提示してください。
- ドメイン・サーバーは自社名義で直接契約する(制作会社にはログイン情報を共有するだけ)。
- WordPressなどのCMSは「最高管理者権限」をもらう(制作会社だけに権限を渡さない)。
- 契約書に「契約終了時のドメイン移管手数料」や「データ引き渡し義務」を明記する。
「全部お任せします」は楽ですが、それは「生殺与奪の権を他人に握らせる」ことと同義だと肝に銘じてください。
二度と「サイト消滅」に怯えないためのリスク分散・自社管理術
- 定期的なバックアップを「自社のローカル環境」や「別クラウド」に取る
- メールの運用はMicrosoft 365やGoogle Workspaceなど大手クラウドに切り替える
- 制作(作る人)とインフラ(維持する場所)を切り離して考える
最後に、二度と同じ轍を踏まないための防衛策をお伝えします。
最もリスクが高いのは、「メールもWebもドメインも、すべて一つの中小制作会社のサーバーに入っている」状態です。その会社が倒れれば、すべてが共倒れになります。
リスク分散の基本は、機能を切り分けることです。
- Webサイト: レンタルサーバー(Xserverなど)
- メール: Google Workspace や Microsoft 365
- ドメイン管理: お名前.com や ムームードメイン
このように、大手事業者が提供するクラウドサービスを個別に契約し、制作会社には「Webサイトの運用」だけを依頼するようにしましょう。そうすれば、もし制作会社が倒産しても、彼らはサーバーのパスワードを知っている運用者に過ぎないため、パスワードを変更して彼らを締め出せば、サイトもメールも無傷で残ります。
また、WordPressであれば「UpdraftPlus」などのプラグインを使い、Googleドライブ等の外部ストレージに自動バックアップを取る設定をしておくことも強く推奨します。
まとめ:パニックを脱し、デジタル資産を守り抜くために
- 72時間以内にインフラ会社(サーバー・ドメイン)へ直接連絡し、権利を確保する
- リース契約がある場合は、独断で支払いを止めず専門機関へ相談する
- 次回の契約からは、必ず「ドメイン・サーバーの自社契約」を徹底する
制作会社の倒産は、青天の霹靂です。怒りや不安がこみ上げるのは当然ですが、今はその感情を「行動」のエネルギーに変えてください。
サイトやドメインは、長年かけて培ったあなたの会社の「暖簾(のれん)」であり、見えない資産です。建物がなくなっても、看板(ドメイン)と顧客リスト(データ)さえあれば、商売は何度でも立ち上げ直せます。
今すぐ、契約書を探し、サーバー会社へ連絡を入れてください。あなたの迅速な行動だけが、デジタル資産を救う唯一の鍵です。